結論から言います
配線用遮断器(MCCB)の選定は、①電線を守れる定格電流、②その位置の短絡電流を切れる遮断容量、③上位・下位との協調の3点で決まります。定格電流はAT、外形の枠はAF。遮断容量はIcuとIcsで意味が違い、下位の容量が足りないときはメーカーが試験で確認した組合せに限り、カスケード遮断で上位に助けてもらえます。
「100Aの負荷だから100AのMCCB」で止まると、短絡時に遮断できない、始動電流で落ちる、事故のたびに上位まで停まる、といった問題が残ります。定格電流はあくまで入口です。
この記事では、AF/AT → 定格電流 → 遮断容量 → 動作特性 → 協調方式 → 負荷別の注意 → 更新の順に整理します。幹線の許容電流の考え方は電線の許容電流と幹線設計、分岐回路の条件は分岐回路の設計で扱っています。
実回路の選定は短絡電流の計算と設計者の確認が前提です
この記事の数値例は計算方法を示すためのもので、特定の設備の選定値ではありません。実際の遮断容量は受電設備の構成、変圧器容量と%Z、こう長で変わります。カスケード遮断の組合せは、メーカーが遮断試験で確認したものだけが使えます。設計・変更は電気主任技術者と設計者の確認のもとで行ってください。
MCCBが守るのは基本的に「電線」
過電流遮断器の第一の役割は、電線が許容電流を超えて発熱し、被覆が傷むのを防ぐことです。負荷機器そのものの保護は、サーマルリレー、電子式過負荷保護、機器内蔵の保護に任せる場面が多くあります。「MCCBが入っているから機器は安全」とは言えません。
電動機の欠相・逆相・過負荷保護は三相電動機の欠相・逆相・過負荷保護で扱っています。役割を分けて考えると、選定の議論が噛み合います。
AF(アンペアフレーム)とAT(アンペアトリップ)
| 用語 | 意味 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| AF | フレームサイズ。同じ外形寸法で使える定格電流のグループを、その最大値で表す | 盤の取付寸法、端子サイズ、将来のAT変更余地に関わる |
| AT | 引外し電流の定格。実際に過電流で動作する基準値 | 電線の許容電流と負荷電流から決める値 |
| 表記例 | 100AF/75AT のように併記する | 図面でATだけ書くと、更新時に枠が合わないことがある |
同じ100AFの中に、60AT、75AT、100ATなどが並びます。将来の負荷増を見込んでAFに余裕を持たせておくと、更新時にATだけ変える判断がしやすくなります。
定格電流は負荷電流だけでは決まらない
- 電線の許容電流を超えない値であること。
- 常時の負荷電流に対して、余裕をもって連続通電できること。
- 始動電流や突入電流で不要動作しないこと。
- 上位・下位との協調が取れること。
この4つは同時に満たす必要があります。負荷電流だけを見てATを上げると電線が守れなくなり、電線だけを見てATを下げると始動のたびに落ちます。
周囲温度で連続通電できる電流は下がる
MCCBの定格は標準的な周囲温度を前提にしています。三菱電機のFAQでは、周囲温度が40℃を超える環境で使う場合の負荷電流の低減係数として、50℃で0.9以下、55℃で0.8以下、60℃で0.7以下という値が示されています。
盤内は外気温より高くなります。キュービクル内や機械室では、この低減を見込まないと、夏場だけ動作する原因不明のトリップになります。盤内温度の管理はキュービクルの温度・換気・結露対策と合わせて確認してください。
定格遮断容量IcuとIcsは意味が違う
遮断容量はJIS C 8201-2-1などに規定され、Icu(定格限界短絡遮断容量)とIcs(定格使用短絡遮断容量)があります。三菱電機のFAQでは、Icuの遮断責務が「O-3分以上-CO」、Icsの遮断責務が「O-3分以上-CO-3分以上-CO」と説明されています。
- O責務:投入状態で短絡し、遮断する動作。使用中の短絡事故を想定する。
- CO責務:開状態から短絡回路へ投入し、遮断する動作。復旧時の再投入を想定する。
Icuは旧JISの定格遮断容量Icnに相当し、通常の選定ではIcu値を使うとされています。Icsは「その後も使い続けられる範囲」に近い考え方で、重要回路ではIcsの値も見ます。
短絡電流を見積もらないと遮断容量は決まらない
遮断容量は「その位置に流れうる短絡電流」より大きくなければ意味がありません。変圧器二次側の短絡電流は、変圧器の定格二次電流と%Zからおおまかに見積もれます。
計算例(変圧器のみを見た概算)
300kVA・210V・%Z=4%の三相変圧器
定格二次電流 = 300,000 ÷(√3×210)≒ 824.8A
短絡電流 ≒ 824.8 ÷ 0.04 ≒ 20,600A = 約20.6kA
500kVA・%Z=5%なら、定格二次電流は約1,374.6A、短絡電流は約27.5kAです。実際には電源側インピーダンスとケーブルのインピーダンスで下がりますが、変圧器直近では数十kAのオーダーになることが分かります。%Zの意味は変圧器の%Zで扱っています。
分岐回路は2,500A以上という標準がある
国土交通省の公共建築工事標準仕様書では、配線用遮断器をJIS C 8201-2-1によるものとしたうえで、分岐回路に用いるものの定格限界短絡遮断容量を2,500A以上とすると定めています。漏電遮断器についても、分岐回路用は過電流保護機構を備え定格遮断容量2,500A以上、高感度高速形かつ雷インパルス不動作形とされています。
これは末端の分岐回路の話です。主幹や変圧器直近では、先ほど計算したように桁が変わります。同じ盤の中でも、位置によって必要な遮断容量は違います。
動作特性曲線の読み方
MCCBの動作特性は、横軸に電流、縦軸に動作時間を取った曲線で示されます。過負荷領域では電流が大きいほど動作時間が短くなる反限時特性、短絡領域では瞬時引外しが働きます。選定では、次の3本を同じ図に重ねます。
- 電線の許容電流と短時間耐量。
- 負荷の始動・突入電流の包絡線。
- 上位・下位の遮断器(または高圧側の保護継電器)の特性。
高圧側との重ね方は保護協調曲線の見方で扱っています。低圧側だけで閉じずに、変圧器一次のOCRまで見通すと、事故のときに停電範囲が読めます。
熱動電磁式と電子式の違い
電子式は瞬時引外し値を高く設定できるため、選択遮断の範囲を広げやすいという利点があります。一方で、整定値の記録と管理が必要になります。
選択遮断方式は「事故点に一番近い遮断器だけ」
三菱電機のFAQでは、選択遮断方式を、短絡事故点にもっとも近い遮断器のみが動作し、他の健全な回路は給電が継続されることを目的とした保護方式と説明しています。分岐で短絡しても主幹は落とさない、という考え方です。
ただし、選択遮断が確保できる範囲は上位遮断器の最小瞬時引外し電流値までとされ、下位に限流性能の優れた遮断器を使って上位への通過電流を小さくすることで範囲を広げられる、と整理されています。無条件に成立するものではありません。
カスケード遮断方式は上位でバックアップする
同FAQでは、カスケード遮断方式を、上下2台の遮断器で短絡電流を遮断する方式と説明しています。下位回路の短絡電流がその遮断容量を超える場合に、上位の遮断器がバックアップとして動作します。下位に容量の小さい経済的な遮断器を使える代わりに、同じ上位に接続された複数の下位回路が同時に停電します。
カスケードは「試験済みの組合せ」でしか使えない
ここが最も重要です。カスケード遮断は、メーカーが遮断試験を行って結果が良好だった組合せを総合カタログ等に掲載しており、その組合せで使うことが前提です。上位の容量が大きいから大丈夫、という理屈だけで任意に組み合わせることはできません。
メーカーが違う遮断器同士、世代が違う機種同士を組み合わせるときは、必ず適用表を確認します。更新で下位だけ別メーカーに替えた結果、成立していたカスケードが崩れることもあります。
電動機回路は始動電流を通す設計にする
電動機は始動時に定格の数倍の電流が流れます。この電流で瞬時引外しが働かないよう、電動機保護兼用のMCCBや、瞬時引外し値の高いタイプを選びます。過負荷保護は電磁開閉器のサーマルリレーや電子式保護に任せ、MCCBは短絡保護と配線保護を担当する、という分担が一般的です。
変圧器・コンデンサ・インバータの突入電流
- 変圧器:投入時の励磁突入電流は定格の数倍〜十数倍に達する。詳しくは変圧器の励磁突入電流とは。
- コンデンサ:投入時に高周波の突入電流が流れる。直列リアクトルの有無で条件が変わる。
- インバータ・電源装置:コンデンサ充電による突入電流と、高調波を含む電流波形の両方を見る。
- LED照明:電源回路の突入電流が短時間だが大きく、台数が多いと合成値が無視できない。
単相3線式は中性線欠相保護を検討する
国土交通省の標準仕様書では、単相3線式電路に設ける400A以下の配線用遮断器は中性線欠相保護機能付とする、と定めています。漏電遮断器についても同様の規定があります。中性線が切れると負荷の分圧で過電圧が生じるためで、その仕組みは単相3線式の中性線欠相で扱っています。
漏電遮断器との役割分担
MCCBは過電流(過負荷・短絡)を検出します。地絡は検出しません。地絡保護が要る回路には漏電遮断器を使うか、地絡継電器と組み合わせます。標準仕様書では、分岐回路の漏電遮断器を高感度高速形(定格感度電流30mA以下、動作時間0.1秒以内)で雷インパルス不動作形としています。選定の詳細は漏電遮断器の選び方で扱っています。
極数と中性極の扱いを図面で確定する
単相2線式、単相3線式、三相3線式で、必要な極数と素子数が変わります。2P1E、2P2E、3P3Eといった表記は、極の数と引外し素子の数を表します。対地電圧の条件によって使い分けが決まるため、回路の電圧種別と接地方式を先に確定してから選びます。
直流回路と太陽光発電での注意
直流は電流零点がないため、交流用のMCCBをそのまま流用できません。直流定格を持つ機種を選び、極性や直列使用の条件をメーカー資料で確認します。太陽光発電の直流側は、日射がある限り電圧が出続ける点も交流回路と異なります。
付属装置で監視と操作を足す
補助スイッチ(AX)は遮断器のON・OFF状態を電気的に表示し、電圧引外し装置(SHT)は遠方から電気的にトリップさせる内部付属装置です。警報スイッチや不足電圧引外し装置と併せて、監視・インターロック・遠方操作の要求を整理します。キュービクルの警報回路との関係はキュービクルの警報回路で扱っています。
更新推奨時期は15年が目安
日本電機工業会の更新ガイダンスでは、標準使用状態で使用した場合、使用開始後15年が更新時期とされ、15年未満でも規定の開閉回数を超えたら更新時期、使用環境が悪い場合はさらに早める目安が示されています。遮断器は「壊れるまで使う部品」ではありません。
同ガイダンスは、JIS C 8201-2-1・2-2に加えて、JEM-TR 119「配線用遮断器の適用及び保守点検指針」やJEM-TR 142「漏電遮断器適用指針」を関連資料として挙げています。点検の考え方はこれらに沿って決めます。
劣化のサインと点検
- 端子部の変色、過熱痕、ねじの緩み。
- 操作ハンドルの感触の変化、トリップ位置に戻らない。
- 本体の変形、割れ、汚損、粉じん・油分の付着。
- 原因不明のトリップの増加、逆に過負荷でも動作しない。
- 短絡遮断後の再使用。遮断後は状態確認と交換の判断が要る。
MCCBを選ぶ12ステップ
- 回路の電圧種別、相数、接地方式、対地電圧を確定する。
- 負荷の常時電流、始動・突入電流、使用パターンを把握する。
- 電線の種類・サイズ・こう長から許容電流を求める。
- 設置場所の周囲温度を確認し、低減係数を見込む。
- AT候補を、電線の許容電流と負荷電流から絞る。
- 盤の寸法、端子、将来の増設からAFを決める。
- その位置の短絡電流を、変圧器容量・%Z・こう長から見積もる。
- IcuとIcsを確認し、短絡電流に対して余裕を持つ機種を選ぶ。
- 選択遮断とカスケード遮断のどちらで設計するか決める。
- カスケードの場合、メーカーの適用表で組合せを確認する。
- 動作特性曲線を重ね、上位・下位・高圧側との協調を確認する。
- 中性線欠相保護、地絡保護、付属装置の要否を確定する。
図面・台帳に残す26項目
盤名称、回路番号、負荷名称、電圧、相数、極数と素子数、メーカー、形式、AF、AT、Icu、Ics、動作方式(熱動電磁式・電子式)、整定値(長限時・短限時・瞬時)、中性線欠相保護の有無、漏電保護の有無と定格感度電流、電線の種類とサイズ、こう長、想定短絡電流、協調方式(選択・カスケード)、カスケード組合せの適用表出典、上位遮断器の形式、周囲温度と低減係数、付属装置、設置年月、次回更新の目安を残します。
更新のときにこの表があるかどうかで、調査の手間がまったく変わります。特にカスケードの組合せ根拠は、記録がないと再現できません。
よくある12の誤解
- AFとATは同じ意味で、どちらを書いても図面上は変わらない。
- MCCBを入れておけば、負荷機器の過負荷も守られる。
- 定格電流は負荷電流から決めれば、電線側は考えなくてよい。
- 盤内の温度は外気温と同じなので、低減は不要である。
- 遮断容量は主幹で足りていれば、分岐は何でもよい。
- IcuとIcsは呼び方が違うだけで、値も意味も同じである。
- 短絡電流は測定しないと分からないので、見積もりはできない。
- 上位の遮断容量が大きければ、どの下位とでもカスケードが成立する。
- 選択遮断は、上位と下位の定格差さえあれば必ず成立する。
- 電動機回路も一般負荷と同じ考え方でATを決めてよい。
- MCCBは地絡も検出するので、漏電遮断器は不要である。
- 遮断器は動かなくなるまで使えるので、更新時期の目安はない。
理解度チェック|オリジナル3問
問1:300kVA・210V・%Z=4%の三相変圧器の二次側で、変圧器のみを考えた短絡電流の概算に最も近いのはどれですか。
ア.約2.1kA イ.約8.2kA ウ.約20.6kA エ.約82kA
解答と理由を見る
正解:ウ。定格二次電流は300,000÷(√3×210)≒824.8A。これを%Z=0.04で割ると約20.6kAです。実際は電源側と線路のインピーダンスで下がります。
問2:下位MCCBの遮断容量が不足するため、上位でバックアップさせたい。適切な進め方はどれですか。
ア.上位の容量が大きければ組合せは自由 イ.メーカーが遮断試験で確認し公表している組合せを適用表で確認する ウ.下位のATを上げる エ.上位を取り外す
解答と理由を見る
正解:イ。カスケード遮断は試験で確認された組合せでのみ成立します。任意の上下組合せで容量が確保できるわけではありません。
問3:盤内の周囲温度が55℃になる場所でMCCBを使います。最初に検討すべきことはどれですか。
ア.そのまま定格どおり使う イ.メーカーが示す高温時の低減係数を適用し、換気・配置も見直す ウ.ATを下げれば温度は下がる エ.遮断容量だけ上げる
解答と理由を見る
正解:イ。高温環境では連続通電できる電流が下がります。低減係数を適用したうえで、盤内温度そのものを下げる対策も併せて検討します。
まとめ
- MCCBの選定は、定格電流・遮断容量・協調の3点で決まる。
- AFは枠、ATは引外しの定格。図面には両方を残す。
- Icuは限界短絡遮断容量、Icsは使用短絡遮断容量で遮断責務が違う。
- 遮断容量は、その位置の短絡電流を変圧器容量と%Zから見積もって決める。
- 選択遮断は上位の瞬時引外し値まで、カスケードは試験済みの組合せまで。
- 周囲温度、始動・突入電流、中性線欠相、地絡保護、更新時期も選定条件に入る。
大電流主幹でIcwまで選ぶ場合
ACB(気中遮断器)の選び方で、Icu/Icsに加えてIcw、利用カテゴリB、LSIG、引出形、主幹・母連の選択協調を確認できます。
公式資料・一次情報
- e-Gov法令検索:電気設備に関する技術基準を定める省令
- 経済産業省:電気設備の技術基準の解釈
- 経済産業省:技術基準との整合確認書 JIS C 8201-2-1:2021
- 日本規格協会:JIS C 8201-2-1:2021 回路遮断器
- 日本規格協会:JIS C 8201-2-2:2021 漏電遮断器
- 日本電機工業会:産業用配線用遮断器・漏電遮断器 更新ガイダンス
- 三菱電機:定格遮断容量 Icu/Ics
- 三菱電機:選択遮断方式
- 三菱電機:カスケード遮断方式
- 三菱電機:周囲温度40℃以上での遮断器の使用
- 三菱電機:JIS C 8201-2-1の概要
- 電気学会:用語解説「保護協調」
- 国土交通省:公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)令和7年版
この記事の作成方針
内容は2026年8月19日にe-Gov法令検索、経済産業省、国土交通省、日本規格協会、日本電機工業会、電気学会、三菱電機の公式・一次13資料へ照合しました。低減係数、2,500A、15年などはそれぞれの資料が示す条件付きの値として扱い、全機種・全用途共通の基準へ広げていません。短絡電流の計算例と確認問題は当サイトのオリジナルで、実設備の選定値ではありません。遮断器、盤、測定器などのアフィリエイトリンクは掲載していません。
次に読む記事
地絡保護の定格感度電流と動作時間を確認します。
高圧側のOCR・VCB・PFまで含めて協調を見ます。
1.25倍・1.1倍の考え方から幹線を組み立てます。
MCCBの下流にある接触器との協調
電磁接触器・電磁開閉器の選び方で、使用負荷種別とIe、サーマル、試験済みMCCB・ヒューズ組合せ、タイプ1・タイプ2協調を確認できます。
※当サイトの画像にはAI生成のものが含まれており、実際の機器・器具とは外観が異なる場合があります。問題・解答の内容には細心の注意を払っておりますが、誤りが含まれる可能性があります。学習の参考としてご活用いただき、最終的な確認は公式テキスト・法令等で行ってください。当サイトの情報に基づく判断によって生じた損害について、一切の責任を負いかねます。
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