受変電設備の実務

高圧地絡電流の計算|対地静電容量・充電電流・完全地絡

結論から言います

6.6kV非接地系統の容量性地絡電流は、対地静電容量と周波数から概算できます。ただし、最初にCが1相分か3線一括かを確認しなければ、結果を3倍違えて扱います。1相分の対地静電容量をC1とする場合はIg≒3×2πfC1E、3線一括容量CΣ=3C1を使う場合はIg≒2πfCΣEです。

高圧地絡電流は、短絡電流のように電源容量だけで決まりません。中性点接地方式、接続中のケーブル・架空線・機器の対地静電容量、周波数、地絡抵抗、事故位置、系統切替で変わります。

この記事は地絡電流の計算書に絞ります。GR・DGR・OVGRの回路と遮断先は地絡保護回路、ZCT・ZPD・EVTがIo・Voを取り出す原理は零相検出回路で確認してください。

計算前に4つの電流を分ける

電流 流れる状態 計算・判定上の役割
1相の充電電流 正常時も各相―大地間に流れる C1と相電圧Eから算出
3線一括充電電流 ケーブル3相分を一括した表記 CΣの定義を仕様表で確認
完全地絡電流 一相が低い抵抗で大地へ接触 非接地・容量支配時の基準値
ZCTが見るIo 事故位置・ZCT位置・電流方向で変化 計算した系統全電流と常に同じではない

適用範囲|容量性地絡電流が支配する非接地系統

この記事の基本式は、対地静電容量を通る電流が地絡電流を主に決める三相非接地系統の定常状態を簡略化したものです。日本の6.6kV配電でよく使われる考え方ですが、全ての高圧・特別高圧系統へ適用できる式ではありません。

中性点抵抗接地、直接接地、消弧リアクトル接地、自家発・変圧器の中性点接地、接地変圧器がある場合は、その接地インピーダンスを含めます。系統図で接地方式を確認せず、電圧だけで式を選ばないでください。

相電圧Eを使う|6.6kVなら約3.81kV

三相系統の線間電圧Vから対地相電圧Eを求めます。

E = V ÷ √3

6,600V ÷ √3 ≒ 3,810V

ここで使うEは正常時の相―大地間電圧です。地絡中は中性点が移動し、故障相と健全相の対地電圧が変化します。基本式は、その変化を容量性電流の合成としてまとめた近似です。

1相分Cを使う式|Ig≒3ωC1E

1相あたりの全対地静電容量をC1〔F〕、角周波数をω=2πf、相電圧をE〔V〕とすると、1相の充電電流はωC1Eです。完全地絡時の容量性地絡電流は、簡略的にその3倍で表します。

Ig ≒ 3 × 2πfC1E

保護継電器資料にある「Ic×3」とは、この1相充電電流Icを基準にした表記例です。資料ごとにIcを1相分、3線一括、ZCT一次換算値のどれで表すかが違うため、記号名だけを移しません。

3線一括Cを使う式|3を二度掛けない

ケーブル資料には、3芯の3線一括―アース間静電容量CΣ〔F〕が示されることがあります。CΣ=3C1として与えられているなら、式は次のようになります。

Ig ≒ 2πfCΣE

CΣが三相合計なら、さらに×3しない

同じ記号Cでも、単芯1条、3芯1相分、3芯3線一括で値が変わります。カタログの表題、単位、測定条件、注記を計算書へ転記します。

計算例1|6.6kV・22mm²・200m・50Hz

オムロンの高圧地絡継電器資料にある参考表では、6.6kV・22mm²・3芯CVの3線一括静電容量は0.84μF/kmです。200mを接続した単純例を計算します。

  • CΣ=0.84μF/km×0.200km=0.168μF
  • E=6,600÷√3=約3,810V
  • Ig≒2π×50×0.168×10−6×3,810
  • Ig≒0.201A

これはケーブル容量だけを使った容量性完全地絡電流の概算です。同じ設備でも60Hzなら周波数比60/50により約0.241Aになります。実設備の整定値ではありません。

計算例2|異なるケーブルを合算する

50Hz・6.6kVで、22mm²・100mと60mm²・150mが同じ母線へ接続中とします。参考静電容量をそれぞれ0.84μF/km、1.17μF/kmとすると、三相合計容量は次のとおりです。

  • 22mm²:0.84×0.100=0.084μF
  • 60mm²:1.17×0.150=0.1755μF
  • CΣ=0.2595μF
  • Ig≒2π×50×0.2595×10−6×3,810=約0.311A

断面積と長さだけでなく、ケーブル種類、単芯/3芯、遮へい構造、製造者の静電容量が必要です。参考表の値を他のケーブル形式へ流用しません。

接続中の全回線を系統状態ごとに足す

地絡時に電気的につながっているケーブル、架空線、母線、変圧器、VT、コンデンサ等の対地静電容量を範囲内で合計します。予備回線が開放中なら除外し、母線連絡が投入される運用ならその状態も別ケースにします。

「設備に存在する全ケーブル長」と「事故時に接続中のケーブル長」は一致しないことがあります。常用、予備、点検、発電機運転、母線分割、増設後最大構成をケース表にします。

ケーブル以外の対地静電容量を落とさない

長いCVケーブルが支配的でも、短い回線や機器容量を自動的にゼロとはしません。架空線、母線、端末、変圧器巻線、VT・ZPD、サージ吸収用コンデンサ等について、解析目的に応じてメーカー値や設計値を確認します。

一方、力率改善用の三相進相コンデンサ容量kvarを、そのまま対地静電容量へ足すこともできません。結線と中性点、対地経路を確認します。

完全地絡と抵抗地絡を分ける

完全地絡は故障相が低いインピーダンスで大地へ接触する基準ケースです。実際には樹木、水分、汚損、炭化、アーク、絶縁劣化を介した地絡抵抗があり、IoとVoの大きさ・位相が変わります。

高抵抗地絡では完全地絡計算値より電流が小さくなる一方、地絡点電圧と零相電圧、アークの断続が関係します。完全地絡電流だけを最小検出電流として使わず、地絡抵抗を変えた系統解析、継電器のVo・Io・位相特性、事故実績へ進みます。

間欠地絡は定常正弦波の式だけで閉じない

水トリー、端末汚損、絶縁物表面の放電等では、地絡が発生・消滅を繰り返し、過渡振動やサージを伴う場合があります。2πfCEは商用周波の定常成分を求める式で、間欠アークのピークや高周波成分を表しません。

継電器不動作や断続警報を調べるときは、事故波形、Vo/Io記録、イベント時刻、ケーブル診断、天候・湿度、開閉状態を照合します。ケーブル劣化診断は絶縁抵抗・水トリー・部分放電へ分けています。

ZCT位置で見える電流が変わる

計算したIgは系統全体の容量性地絡電流の基準です。受電点ZCT、各フィーダZCT、事故回線の事故点より電源側・負荷側では、囲む導体と接地線経路が違うため、同じ値・同じ方向を検出するとは限りません。

高圧ケーブルのシールド接地線をZCTへどう通すかも、保護対象内外の電流を相殺・加算します。計算書にはZCT位置、K/L極性、シールド接地線経路、事故方向を図示します。

構外地絡時は自構内充電電流が逆向きに流れる

同じ配電線の他回線で地絡すると、自構内の健全ケーブルの対地静電容量から事故点へ充電電流が流れます。受電ZCTには、自構内事故時とは逆方向のIoが現れます。

無方向GRは電流の大きさだけを見るため、自構内充電電流が大きいと不要動作の可能性があります。DGRはVoとIoの位相から方向を選別しますが、専用ZCT・ZPD/ZVT、極性、位相特性が正しく構成されていることが前提です。

GR整定との関係|構内充電電流より上だけでは足りない

GRのIo動作値は、正常時残留や構外事故時に流れる構内充電電流より十分上で、検出したい最小内部地絡電流より下である必要があります。メーカー資料にはIc×3と整定値を比較する考え方や、高圧受電点の整定例があります。

ただし、例示値は全設備共通の設定値ではありません。上位配電線の地絡保護、一般送配電事業者の協議条件、既設SOG、Vo整定、動作時間、最小地絡電流、計器誤差を一緒に確認します。

DGRでも充電電流計算が必要な理由

DGRは方向を判定するため、充電電流が大きくても必ず誤動作しない、という理解は不十分です。Io動作値、Vo動作値、位相領域、ZCT/ZPDの組合せ、ノイズ、極性、事故方向のすべてが判定へ影響します。

構内ケーブル増設でIcが増えれば、入力の大きさと位相、GR/DGR採否、保護協調の再確認が必要です。既存整定値を変更する前に、計算書・専用機器・電力会社協議を更新します。

増設・系統変更で再計算する7条件

  • 高圧ケーブルの増設、更新、種類・断面積変更
  • 母線連絡、予備回線、受電方式の変更
  • 自家発・変圧器・接地変圧器の中性点変更
  • GRからDGR、ZPDからEVT等の保護方式変更
  • ZCT位置・極性・シールド接地線経路の変更
  • 一般送配電事業者の配電線・保護条件変更
  • 地絡・不要動作・不動作・断続警報の発生

計算を進める11ステップ

  1. 単線結線図で電圧、周波数、中性点接地方式を確認する。
  2. 地絡事故点と計算範囲を決める。
  3. 事故時に接続中の母線・回線構成をケース分けする。
  4. ケーブル種類、単芯/3芯、断面積、こう長を回線別に集める。
  5. 静電容量が1相分か3線一括かを資料で確認する。
  6. μF/km×kmで各回線のCを求め、同じ定義へそろえる。
  7. 架空線・母線・機器等の対地容量を必要に応じて加える。
  8. E=V/√3と2πfを使い容量性電流を求める。
  9. 完全/抵抗/間欠地絡と接地インピーダンスの適用限界を付記する。
  10. ZCT位置ごとの電流方向、GR/DGR/OVGRの検出条件へ渡す。
  11. 電力会社協議、整定表、試験値、変更履歴と照合する。

計算書へ残す22項目

計算目的、図面番号、計算日、系統電圧、周波数、接地方式、母線構成、開閉器状態、事故点、回線名、ケーブルメーカー・形式、芯数、断面積、こう長、静電容量値、Cの定義、出典・版、回線別C、全C、相電圧E、容量性地絡電流、ZCT位置・極性・整定協議結果を残します。

結果だけを「Ig=0.31A」と記録しても、1相分か3線一括か、50Hzか60Hzか、どの回線が接続中か分かりません。式、単位、系統状態、出典を一体で保存します。

よくある12の誤解

  • 高圧地絡電流は変圧器容量だけで決まる。
  • 6.6kVなら地絡電流は全設備で同じである。
  • カタログのCは必ず1相分である。
  • 3線一括Cへさらに3を掛ける。
  • μF/kmを長さで割る。
  • 50Hzと60Hzで結果は同じである。
  • 停止中の予備回線も常に合算する。
  • 進相コンデンサkvarをそのまま対地容量へ足す。
  • 完全地絡電流が最小地絡電流である。
  • 系統全Igと全ZCTのIoは同じである。
  • DGRなら充電電流計算は不要である。
  • ケーブル増設後も既設整定を見直さなくてよい。

理解度チェック|オリジナル3問

問1:資料のCが「3線一括―アース間静電容量」の場合、容量性地絡電流の概算として適切な式はどれですか。
ア.2πfCΣE イ.3×2πfCΣE ウ.V÷C エ.C÷2πf

解答と理由を見る

正解:ア。CΣがすでに三相合計なら3を二度掛けません。1相分C1なら3×2πfC1Eです。

問2:同じ6.6kV・同じ静電容量で、50Hzから60Hzになったとき容量性電流はどうなりますか。
ア.不変 イ.5/6倍 ウ.6/5倍 エ.2倍

解答と理由を見る

正解:ウ。I=2πfCEなので周波数に比例し、60/50=1.2倍です。

問3:高圧ケーブルを増設した後の対応として最も適切なものはどれですか。
ア.電圧が同じなので何もしない イ.Cと接続状態を再集計し、ZCT位置・GR/DGR整定・電力会社協議を確認する ウ.GRを最大整定へする エ.ZCT二次を外す

解答と理由を見る

正解:イ。増設で構内充電電流が変わり、外部地絡時のIoや保護協調へ影響します。実整定の変更は承認手順に従います。

まとめ|Cの定義、系統状態、ZCT位置で閉じる

  • 基本式の前に、非接地・容量支配という適用範囲を確認する
  • 1相分Cなら3×2πfC1E、3線一括Cなら2πfCΣE
  • 50/60Hz、ケーブル種類、こう長、接続中の全回線をそろえる
  • 完全地絡、抵抗地絡、間欠地絡を分ける
  • 系統全IgをZCT位置・電流方向・GR/DGR条件へ渡す
  • 増設・系統変更・保護更新のたびに再計算する

安全上の注意

この記事は計算の読み方であり、実設備の地絡試験・整定変更・ZCT接地線変更・復電手順ではありません。高圧地絡では感電、アーク、健全相対地電圧上昇、波及事故の危険があります。実作業は電気主任技術者等の管理下で、一般送配電事業者との協議資料、保安規程、承認図、メーカー取扱説明書を優先してください。

公式資料・一次情報

根拠・検証方針

内容は2026年8月14日に経済産業省、オムロン、三菱電機の公式・一次10資料へ照合しました。Cの1相/3線一括定義、非接地系統の適用範囲、完全/抵抗/間欠地絡、ZCT位置を明記し、メーカー整定例を全設備の設定値へ一般化していません。0.201A・0.311Aの計算例と確認問題は当サイトのオリジナルで、式を再計算済みです。

関連する解説

受電点の地絡遮断と波及事故防止はPAS・UGS・SOG、接地極と保護接地の系統は高圧接地系統図、耐圧試験時のケーブル充電電流は高圧絶縁耐力試験で確認できます。

資格太郎

この記事を書いた人:資格太郎電気工事士の独学合格を目指して学習中。法令・規格・メーカー一次資料を基に、試験学習と設備管理で混同しやすい境界を整理しています。運営者情報を詳しく見る



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